日本大学理工学部科学技術史料センター
長江啓泰

長江啓泰


人物年譜
 

長江啓泰 文庫

 日本の戦後のモータリゼーションをみるうえで、一般人の交通手段としての二輪車の普及は著しいものがあった。その時期に二輪車の運動特性を解析し、性能向上を促進した研究資料は、工学的にも非常に興味深いものがあり、1970年代の"交通戦争"と呼ばれ社会問題化した交通安全問題に対し、死者を半減するまでに改善した交通政策・交通安全教育の経緯などを示す資料は、歴史的な資料価値も高いとともに、今後の政策を検討するうえでも有用である。
 長江博士は、1935(昭和10)年7月5日に東京・大田区に生まれ、日本大学工学部(現・理工学部)機械工学科を卒業した後、同学大学院に進学し、1964(昭和39)年からは、日本大学専任講師として教鞭を執る傍らで、一貫して自動車ならびに二輪車の操縦性・安定性の研究に従事する。1971(昭和46)年に助教授、1977(昭和52)年に教授となる。
 オートバイの運動特性に関する実験解析においては、1950年代後半から日本国内において先駆的な成果を示している。特に、二輪車の前輪系の幾何学、力学的バンク角ならびに基礎運動方程式の導出については、40年以上経過した現在においても、それを基本とした取り扱いが続けられている。また、その研究過程における実車実験データ、解析データならびに導出経過を表す資料は、非常に研究資料性が高い。1992(平成4)年には、自動車技術会で二輪車の運動特性専門委員会初代委員長を務め、併せて1981(昭和56)年からは自動車技術会規格委員会分科会委員として二輪車関連のISO、JISならびにJASOの改訂・制定に活躍した。
 一方で、長江博士は、交通安全問題についても、長期にわたり教育・規制など多方面における活躍をしており、自動車製造物責任相談センター理事、日本交通管理技術協会での運転シミュレータ試験審査委員会委員長、駆動補助付自転車・普通自転車の形式認定に係わる審査委員会委員長、中央環境審議会専門委員会委員など委員会を歴任している。また内閣総理大臣賞、交通栄誉章緑十字銅章、交通栄誉章緑十字金章を受章している。
 機械工学科長江研究室で二輪車ならびに四輪車のみならず、人間一機械系などのテーマを熱心に指導し、研究室から輩出された約250名の卒業生・修了生は、現在、輸送機器をはじめ各業界の一線で活躍をしている。
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