日本大学理工学部科学技術史料センター
 

小林文次 文庫

 小林文次博士は、1949(昭和24)年に日本大学工学部(現・理工学部)建築学科に就任以来、34年間の長きにわたり教育と研究の両面において大きな足跡を残した。1983(昭和58)年に65歳で逝去した折、ご遺族からのお申し出により、膨大な蔵書の中から特に選ばれ、理工学部が寄贈を受けた建築関係の専門書、和・洋合わせて2,739冊が「小林文次文庫」と命名され理工学部図書館に所蔵されている。
 欧米ではよく見かけるが、優れた研究者の死後、その書斎をそっくり、または選び出して大学図書館にまとめて移管し、公開活用に供するという方法がとられる。理工学部では「小林文庫」がその第1号となったのである。
 小林博士は、1918(大正7)年4月19日、福島県伊達郡桑折町に生まれ、東京帝国大学工学部を卒業後は大学院に進学して建築史を専攻された。1944(昭和19)年4月、慶應義塾大学予科教授を経て、1949(昭和24)年5月より日本大学助教授、1961(昭和36)年には教授に就任している。1960(昭和35)年4月には論文「メソポタミアにおける古拙建築の成立と展開」により東京大学より工学博士の学位を授与されたが、この論文は1960年度の日本建築学会賞(論文賞)も授与されている。
 1952(昭和27)年、フルブライト法による渡航費支給を得て米国オレゴン大学に留学、その後も海外との行き来は盛んで、長年にわたり、オレゴン大学への出講やハワイ大学の客員教授などを務めた。実兄に当たる(財)古代学協会の角田文衛博士との関係から同会の理事を務め、またユネスコにおける文化遺産部門を担う世界的組織ICOMOSの理事として長年にわたり国内外の文化財保護の活動に当たるなど、まさに"国際派"とも称すべき活躍をしてきた。
 建築史分野での研究は実に多彩多様であり、こうした研究上の軌跡から、「小林文次文庫」は文字通り、古今東西の図書類からなっており、その中には貴重本も多数納められている。
 中でも江戸時代の写本『匠明』(全5巻)は桃山から江戸期にかけて活躍した大工棟梁平内(ヘイノウチ)家に伝えられた技術秘書で、国会図書館、東京大学総合図書館、それと小林文庫所蔵のもの3セットしか伝えられていない日本建築技術史上、真に貴重な資料である。
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